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最高裁判所第一小法廷 昭和36年(オ)15号 判決 1963年10月10日

主文

原判決中、詐害行為取消請求および詐害行為取消を理由とする登記抹消登記手続請求に関する第一審判決に対する控訴を棄却した部分を破棄し、これらの部分に関する本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

その余の請求に関する附帯上告人の上告を却下する。

附帯上告費用中前項の請求に関し生じた部分は附帯上告人の負担とする。

理由

上告代理人丸岡奥松および附帯上告代理人内野房吉の各上告理由について。

原判決引用の第一審判決は、原告(上告人)が昭和二九年六月一日訴外長内清江との間に、同訴外人所有の本件宅地建物を代金二〇〇万円で買受けるべく、売買完結の期限を昭和三〇年一月一〇日とし、同日までに右訴外人において原告に対し負担する債務を完済しないときは売買本契約をなし、これを完済したときは予約はその効力を失なう旨の売買予約契約を締結し、昭和二九年六月四日右売買予約契約による所有権移転請求権保全の仮登記を経由し、ついで同年一二月三一日右当事者間において右売買予約に基づく売買本契約を締結し、昭和三〇年一月六日所有権移転登記を経由した旨を確定したものである。

右判決は、被告(被上告人)が昭和二九年一二月三一日当時訴外長内清江に対し一四八万三六三六円の商品売掛金支払のため振出を受けた手形債権を有していたのに、右訴外人は本件宅地建物を措いて他にはみるべき資産を有しなかつたから、前記売買本契約の締結は、被告の右訴外人に対して有する債権の一般担保を失なわしめ、これを詐害するものであると判示する。しかしながら、昭和二九年一二月三一日における売買本契約の締結は、同年六月一日における売買予約契約の履行としてなされたものであること前示のとおりであるから、たとえそれによつて他の債権者の一般担保を減少ないし喪失せしめ、事実上弁済の途を断つとしても、それだけでは詐害行為とならないものというべきである。また、本件の売買予約契約において、売買本契約は昭和三〇年一月一〇日までに右訴外人において債務を完済しない場合に限りこれをなす旨の約定であつたのに、当事者の合意をもつてこれを昭和二九年一二月三一日に早めたものであること前示のとおりであるが、本件売買予約による所有権移転請求権については、その権利を保全する仮登記が経由されていること前示のとおりであるから、特段の事情のない限り、その売買本契約成立の時期如何は、他の一般債権者の利害に影響のないものというべく、そして原判決は本件売買本契約成立の時期を当初の約定より若干早めたことが、とくに一般債権者を害するに至ると認むべき特段の事情に当るものであることについては、何らこれを確定していないのである。

されば、本件については、昭和二九年六月一日における売買予約契約締結の時において既に詐害行為の要件が具備していたか否かが審理判断されねばならないものであるところ、原判決は、右日時における被上告人の訴外長内清江に対する債権の存否およびその額、右訴外人の財産状態等詐害行為の成立要件について何ら審理判断せず、昭和二九年一二月三一日現在における右要件事実の存在をもつて直ちに訴外長内清江の前示行為が被上告人に対し詐害行為となるものと断定したのであるから、原判決はこの点において法律の解釈を誤つた違法があるといわなければならない。従つて、原判決中、詐害行為取消請求およびこれを理由とする登記抹消登記手続請求に関する部分を破棄し、これを右の点の審理のため、原審に差し戻すべきである。なお、原判決中上告人および附帯上告人のその余の請求に関する部分については、附帯上告人において上告理由を主張しないから、これに対する附帯上告人の上告は不適法として却下すべきである。

よつて、民訴四〇七条、三九九条ノ三、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤朔郎 裁判官 長部謹吾)

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